2026.05.18
- つくり手とHOTOLIの記憶
陶芸家 福島万希子さんの工房から

熊本の郊外、山手の方に車を走らせると道沿いに川がせせらぎ、農作業に勤しむ人々に目が留まる。見上げる空は広く深呼吸したくなる、長閑な場所。はじめて訪れたはずなのに、「ただいま」という言葉が似合う、どこか懐かしい風景が広がる。
約束の時間より早く、外で花々や野いちご、筍の手入れをしつつ出迎えて下さった、朗らかで温かいひと、陶芸家の福島万希子さんだ。


自然の息吹を感じる小道を抜けると、広い敷地の中に福島さんの工房が佇む。学生時代やその後しばらくを東京で過ごし、山梨での作陶生活を経て、24年ほど前に故郷である熊本へ。元々は牛小屋だったという木造の古い建物を、制作の合間に10年ほどかけ少しずつ、少しづつ、家族や友人とともに自分たちで手をかけながらつくりあげたもの。


扉の先には福島さんの手掛けた陶器たちがずらりと並ぶ。
しろく優しい風合いの福島さんの作品たちは用途から入るのではなく「かたち」から生み出される。「やわらかいりんかく」の器や、ひとつひとつに表情のある線があしらわれた「刻々」の器たち。面取りをして仕上げたものやまるく優しい触り心地のもの。
福島さんの手仕事によって生み出される「かたち」は手に取るひとを優しく包み込み、使い方も使う人に委ねられ、おおらかに受け止めてくれる。



仕立て屋を営む家に生まれた福島さんにとって「ものづくり」は幼少期から当たり前にくらしの傍らにあった。大学・大学院と陶芸を学び、その頃は海外の様々な場所へ出かけ、五感で世界を吸収する日々を送る。思い返せば東京で暮らした期間も、長期の休みになると自然を求めて都会を離れていたと言う。
「車の音ひとつ聞こえないこの場所が、とても気に入っているんです」
そう語る福島さんは今、この静かな環境の中で、日々創作に向き合っている。

工房の軒先には毎年ツバメが巣をつくる。今年も新たな家族を連れてやってきたと、目を細める福島さん。その人柄がやさしくおおらかな作品にも宿っているように感じる。

工房を訪れて一息ついた頃、おもてなしに供されたのは、自作の器に庭で育てた野いちご。この場所に到着してすぐに野いちごに興味を示した私への温かな気遣いだ。静かな工房でお茶をいただきながら福島さんが見てきた様々な世界の話を聞き、心が引き込まれる。時折、自由気ままにこの場所で生きる猫も顔を出してくれて癒しを与えてくれる。
生業にされている陶芸のみならず、工房を自らつくり、野いちごを摘んでジャムを炊き、花や作物を育てる。福島さんのくらしには、日常を愉しむための知恵が溢れている。


楽しみ方をたくさん知る福島さんと過ごす工房での時間は穏やかで、心が満たされる。やさしい作品たちに囲まれて目にも心にも豊かな空間。
「またこの場所で、この人に会いたい」
そう願わずにはいられない、温かな時間がその場所には流れていた。

- #福島万希子


