NOTEよみもの

2021.06.09

  • HOTOLIの日々
  • HOTOLIができるまで

HOTOLIの想い

hotoli_外観
 

「いえとくらしの道具」のお店としてはじまったHOTOLI。
既にお越しいただいた方はちょっとした違和感を感じていらっしゃるかもしれません。

 
 

高い建物も立ち並ぶ幹線道路沿いに突如と現われた雑木に囲まれた一角。
入り口がどこだか一目では分からないし、何だか大きすぎるウッドデッキが奥まで続いている。
一歩足を踏み入れると、正面には薪ストーブが据わっており、束ねられた薪がすぐ脇に小積んである。
店の最奥には飲食店でもないのに長い長いキッチンがあるし、ひっそりとした暗がりには小さな畳が敷かれた箱も設えられている。

 
 

店という割にはよく分からない空間が多くないかな?と思われた方もきっといるでしょう。
どうしてそのようなお店になっているのか、少しづつ綴っていきたいと思います。

 
 
 

 
 
 

さて、私たちの正体は私たち自身も計りかねるところがあります。
お店の店員さんとも少し違うような。

 
 

これまで長いこと、住宅の設計というお仕事に携わらせていただいておりました。
夢と希望・期待に溢れる現場です。

 

”どんなお家にしましょうか”というタイミングで、お施主さんが持ってこられるものたち
ー手描きのメモや絵・写真・雑誌の切り抜きー
には沢山の愛おしい思いが詰まっていて、大切な人たちと幸せな時を積み重ねていきたいという人間的な欲求は、
家族の形がどんな風であれ共通だなあと感じていました。
その個々の欲求を形にするのが、私たちに与えられた役目だと思っていました。

 

色や見た目、細部の仕上がりにこだわったり、広さや動線を思案したり、明るさや風通しに目を向けたり、はたまたエネルギー問題や断熱・気密に気を配ったり、
考えた方がいいかもしれない事柄は山のようにあります。
そうやって半ば骨抜きな状態になりながら、全力を尽くしてつくり上げていった箱。

 
 

けれども、ふと思ったのです。
幸せはもっと簡単に手に入る、苦労してつくり上げなくても、気づけばそこにあるようなものではないのかな。
日々のちょっとした心掛けや工夫、ありのままを受け入れて楽しむ心さえあれば、どんな状況でも簡単に生み出す事が出来る。
大切なのは、自分自身のものさしを頼りに、自分や一緒に過ごす人が心地よい、気持ちいいと思える状態を求めていくこと。
そうやって試行錯誤しながら、くらしをつくっていく楽しみが人生の楽しみとイコールになっていくような気がしています。

 
 
 

 
 
 

余談ですが、私の父と母は庭仕事が大好きです。
暇さえあれば表へ出て、水をやったり、花柄を摘んだり、植え付けをしたり。
一仕事終え、庭の真ん中でお茶を飲みながら、今年の杏はどうだの、あの花苗が欲しいなどと相談する事が日々の楽しみであり生きがいのようです。

 

いい歳になって時間に余裕があるからそんな事が出来るのかなとも思うけれど、思い返してみると、私が幼いころからずっとそれは続いていて、その変遷を辿ると実に変幻自在で面白いものです。

 

ある時、頼まれて庭の見取り図を描いたことがあります。
その時は、お茶が飲めるテラスが欲しいけれど、どのあたりにどの位作れそうかという、丁度良い塩梅を探すためのものでした。

 

一週間が経ち、建物の輪郭と庭の関係が分かるその見取り図の周りには、父母によって花の絵と名前がびっしりと書き込まれ、色鉛筆で色が塗られていました。こうやったら気持ちいいと思うのよと、それはそれは楽しそうに話してくれました。

 

五年が経ち、今度は出来上がったテラスに木で出来たテーブルと椅子が加わりました。若い頃からの夢だったの、と嬉しそうに紹介されたそれらは、ラベンダーブルーのペンキで塗られていました。
少し派手すぎない?とも思ったけれど、母はとっても満足気に微笑んでいます。

 

完璧ではない仕上がりが愛おしいし、
時とともに移り変わっていく庭そのものを、自分たちらしいやり方で生かしていく事で、自分たち自身も生き生きとしている。

 
 
 

 
 
 

大人になると世界の事がくっきりと見えて、何でもスマートに出来るようになると思っていました。
いつか見た雑誌の、くらし上手で素敵なあの人のように。
その時が来るまで、新しいことには何でも挑戦し、吸収していこうと誓って駆け抜けた二十代。

 

けれどもその時はいつまで経ってもやってきません。
気づけば、手の込んだ料理ではなく、ちゃちゃっと作れるシンプルな名もない料理ばかりが食卓に並び、片付けや掃除、洗濯も片目を瞑って自分流にやりこなす日々。

 

そんな日々の繰り返しがある中、気に入ったものを買ったり、美味しいものがやってきたり、誰かと何でもない会話が弾んだり、ちょっとした変化に心が温まることがあります。
日常に新しい風がふわっと舞い降りるような瞬間。

 

背筋がピンと伸び、自分自身や大切な人のために、少し先の楽しみを準備しよう、と思う。
昨日より1mmでも成長して、くらしを居心地がよく風通しのよい場所にしよう、と思う。

 

そういう閃きは突然にやってきて、去年思っていた事とも少し違う。
変わらない毎日を過ごしてきたつもりでも、考えや習慣は少しづつ更新され変化していくことに気が付きます。
その時々の自分のものさしに正直に、内面に温めてきた夢を少しづつ前へ進めていく。
未完成のくらしを楽しむワクワク感こそ、大切に育んでいきたいと思うのです。

 
 

ふと、心の赴くままに訪れた時、HOTOLIがそんな想いに応えられる場所になるといいなあと思っています。

 
 

ゆりこ

郊外でほどよい田舎暮らしをしています。四季折々の楽しみ方をご提案します。